〜“平らで寝る”ことで育つ、赤ちゃんの体幹〜
赤ちゃんは、
お腹の中という
“無重力に近い世界”から生まれてきます。
羊水に包まれ、
ふわふわ浮かぶような環境。
そこから突然、
強い重力のある世界へ出てくるのです。
でも、
生まれたばかりの赤ちゃんには、
まだ骨格も未熟で、
重力に対抗できる身体はありません。
だから新生児は、
「寝ていること」
しかできないのです。
実はこれ、
未熟だからではなく、
“必要だから”なのです。
なぜ赤ちゃんは寝ているしかできないの?
それは、
身体の深い部分にある
「深層筋(しんそうきん)」を育てるためです。
筋肉には順番があります。
まず最初に育つのは、
背骨の近くにある
短くて小さな筋肉。
そのあとに、
身体の表面にある
長く大きな筋肉が育ちます。
つまり、
“長い筋肉は、
短い筋肉のあとに働く”
という法則があるのです。
この短い筋肉こそ、
赤ちゃんの体幹の土台になる筋肉。
背骨のすぐ近くにある
深層筋です。
たとえば、
・短回旋筋
・長回旋筋
・多裂筋
など。
短回旋筋:生後2か月までの最初の時期
長回旋筋:3カ月~4か月
多裂筋:5カ月~6カ月
この順番で発育
これらは、
姿勢を支えたり、
脊椎を安定させたりする、
とても大切な筋肉です。

深層筋は「寝ている時」に育つ
赤ちゃんは、
重力に完全に負けた状態で、
平らな場所に寝ています。
実は、
この“重力に負ける”という体験が、
深層筋を育てるのです。
だから昔から、
「寝る子は育つ」
と言われてきました。
それは単に、
身長が伸びるという意味だけではありません。
“体幹そのものが育つ”
という意味でもあるのです。
赤ちゃんは、
寝ながら、
重力を感じ、
少しずつ背骨を育て、
深層筋を形成していきます。
この深層筋が育つことで、
初めて脊椎が安定し始めます。
だから、
深層筋が育つまでは、
・起き上がれない
・寝返りできない
・姿勢を保てない
のです。
つまり、
できないのではなく、
“まだ身体が準備中”なのです。
「早くできる」が大切ではない
今は、
・早く座れる
・早く立てる
・早く歩ける
ことに注目されやすい時代です。
でも本当に大切なのは、
“順番通りに育つこと”です。
赤ちゃんは、
せっかく
「寝て育つ時期」
を与えられて生まれてきています。
だからこそ、
その時期を飛ばさないことが大切。
寝て、
重力を感じ、
深層筋を育てる。
その土台ができてから、
次の発達へ進んでいくのです。
「丸める」と「丸めて寝かせる」は違う
ここで、
とても大切なことがあります。
それは、
“丸める”
と
“丸めて寝かせる”
は違う、ということ。
抱っこや授乳では、
赤ちゃんを丸く包むことは、
安心感につながります。
でも、
寝ている時まで
ずっと丸めた姿勢にしてしまうと、
背中側の深層筋が育ちにくくなります。
なぜなら、
赤ちゃん自身が、
重力に対して
背中を使えなくなるからです。
寝ている時は、
重力に負けながらも、
少しずつ
背中側の筋肉を働かせることが大切なのです。
「反る」が増えると何が起きる?
一方で、
反り返りが強すぎる状態も、
身体には負担になります。
反りが強い赤ちゃんは、
首や肩、
胸まわりの筋肉を使って、
頑張って呼吸していることがあります。
本来、
呼吸は、
横隔膜や体幹の深い部分で行いたいもの。
でも、
身体が緊張すると、
“吸気補助筋”
と呼ばれる、
首や肩の筋肉まで総動員して、
呼吸し始めます。
すると、
身体は常に
「頑張るモード」になります。
これでは、
深層筋が育ちにくくなってしまいます。
なぜ、赤ちゃんは反るの?
呼吸の中心になるのは、
“横隔膜(おうかくまく)”
という筋肉です。
横隔膜は、
肺の下にある、
ドーム状の大きな筋肉。
息を吸う時に下がり、
吐く時に上がる。
その動きによって、
肺に空気を入れています。
そしてこの横隔膜は、
単なる“呼吸の筋肉”ではありません。
実は、
・体幹
・姿勢
・背骨の安定
・お腹の圧(腹圧)
とも深く関係しています。
つまり、
横隔膜がしっかり働くことで、
“身体の内側から安定する力”
が育っていくのです。
でも、横隔膜が使いにくくなることがある
赤ちゃんは、
本来なら
お腹をふくらませながら、
ゆったり呼吸します。
でも、
身体が反りやすくなると、
横隔膜が使いにくくなります。
すると赤ちゃんは、
“なんとしても呼吸しよう”
とします。
なぜなら、
呼吸は生きるために最優先だから。
だから本来は
あまり使わなくていい、
首・肩・胸の筋肉まで使って、
頑張って呼吸し始めます。
これが、
“吸気補助筋”
を使った呼吸です。
吸気補助筋を使うとどうなる?
吸気補助筋とは、
呼吸を補助するための筋肉。
たとえば、
・首
・肩
・胸まわり
など。
本来は、
激しい運動の時などに
一時的に使う筋肉です。
でも赤ちゃんが、
日常的にこの筋肉を使って呼吸すると、
身体は常に
“緊張モード”
になります。
すると、
・反り返る
・身体が硬い
・抱っこでのけぞる
・胸だけで呼吸する
・肩が上がる
・眠りが浅い
・落ち着かない
などにもつながりやすくなります。
なぜ横隔膜が使いにくくなるの?
ここがとても大切です。
赤ちゃんの横隔膜は、
姿勢や抱っこ、
授乳の影響を大きく受けます。
① 反らす抱っこ
赤ちゃんの身体を
ピーンと伸ばした状態で抱くと、
お腹側が引っ張られます。
すると、
横隔膜が動きにくくなり、
首や胸で呼吸しやすくなります。
特に、
・脇抱き
・縦抱きで反る
・常に上を向いている
状態が続くと、
身体は
“反ることで呼吸するクセ”
を覚えていきます。
② 空気を飲み込む授乳
授乳時に、
・浅飲み
・口が開いている
・乳首をうまく咥えられない
・姿勢が反っている
などがあると、
空気をたくさん飲み込みやすくなります。
すると、
お腹にガスが溜まりやすくなる。
お腹が張ると、
横隔膜はさらに動きにくくなります。
するとまた、
首や胸で呼吸する。
つまり、
“呼吸しにくい”
↓
“空気を飲み込む”
↓
“お腹が張る”
↓
“さらに横隔膜が動かない”
というループになることがあります。
「泣かない子」がラクとは限らない
実は、
あまり泣かない赤ちゃんの中にも、
身体を緊張させて
頑張っている子がいます。
本来、
泣くことは、
・呼吸を広げる
・肺を使う
・身体を動かす
大切な運動でもあります。
でも、
緊張が強い子は、
うまく泣けないこともある。
すると、
呼吸が浅くなり、
身体の内側が育ちにくくなることがあります。
深層筋が育つと、直筋系が働き始める
赤ちゃんの発達は、
まず背骨近くの深層筋が育ち、
そのあとに、
身体を丸めたり、
まとめたりする
「直筋系」が働き始めます。
代表的なのは、
- 腹筋
- 首の前
- 胸
- 股関節の前
- 太ももの前
など、
身体の前面をつなぐ筋肉。
つまり、
深層筋が土台、
直筋系はその上に育つ。
順番があるのです。
だから、
土台が育っていない状態で、
無理に姿勢を作ったり、
頑張らせたりすると、
身体は表面の筋肉ばかり使うようになります。
すると、
姿勢保持だけで疲れてしまう。
集中力が続かない。
落ち着かない。
呼吸が浅い。
そんな状態にもつながっていくのです。
生後6ヶ月までは「身体の土台作り」の時期
生後6ヶ月頃までの赤ちゃんは、
“何かをできるようにする時期”
ではありません。
まずは、
・重力を感じる
・深層筋を育てる
・呼吸を育てる
・背骨を育てる
・安心して身体を預ける
そんな、
身体の土台を作る時期です。
この時期の積み重ねが、
その後の
・寝返り
・ハイハイ
・座る
・立つ
・歩く
すべてにつながっていきます。
「体幹が弱い=筋トレ不足」
と思われがちですが、
赤ちゃんや子どもの場合、
“身体の中心である体幹がうまく働けていない”と、
実は全身にいろんなサインが出てきます。
たとえば、
・頭がいつもグラグラする
・抱っこで反り返りやすい
・目線が合いにくい
・おもちゃを目で追いにくい
・姿勢が安定しない
・呼吸が浅い
・肩が内側に入りやすい
こうした様子も、
「身体を支える軸」がうまく使えていないサインのひとつとして見ていきます。
本来、呼吸は
横隔膜を中心に、
胸郭やお腹がやわらかく動きながら行われます。
でも体幹がうまく働かないと、
身体はなんとか呼吸をしようとして、
首や肩、胸の筋肉を使って
“頑張る呼吸”になります。
すると、
・肩が巻く
・胸がへこむ
・反り返って呼吸する
・眉を上げて息を吸う
・常に力が入る
という状態になりやすいのです。
また、
目の動きと身体の軸は深く関係しています。
身体の中心が不安定だと、
目で物をスムーズに追うことが苦手になり、
文字を読むことに疲れやすかったり、
集中が続きにくくなる子もいます。
だから大切なのは、
「できないことを訓練する」より、
まず“身体の土台”を整えること。
抱っこ、
呼吸、
お口、
姿勢、
寝方、
遊び方…
毎日の積み重ねが、
子どもの身体の安心感につながっていきます。
怖がる必要はなくて、
「今の身体はどう頑張っているのかな?」
と見る視点が、
とても大切だと思っています。

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